脳が記憶するしくみ
人間の感情や思考、会話や勉強なども、脳の神経細胞が発火して電気信号が通り抜けることで作られる。同様に、記憶も脳に蓄えられていて、電気刺激で想起される。
感情などは一過性のものだが記憶は永続する。記憶が残るのはシナプス可塑性によって行われる。可塑性とは、力を加えるとなんらかの変化が起こり、力がなくなっても元には戻らず形が残る性質のことを表す。人間の脳はシナプスが神経回路を作り、神経伝達物質が情報を伝達している。神経伝達物質そのものが伝わるわけではないらしい。
このとき、脳には常になんらかの電気信号が流れているが、同じ信号が何度も流れて一定基準に達すると伝達効率を上げるために神経細胞をつなげる回路が増強される。増強の手段にはいくつかあるが、神経伝達物質を受け取る受容体の数を増やすものが多くみられる。受容体が増えれば、送り手側が送った神経伝達物質を漏らさず受け取ることができ、信号が強く伝わるようになる。そうして、シナプスの可塑的な性質により、いちど受容体が増えたら減らずに増えたぶんだけ残り続ける。これが記憶を保持する基本となる。
次に、ある神経細胞は隣接する一部の神経細胞と神経繊維で繋がってグループを構成している。神経細胞が情報によって刺激を受けた場合、その神経細胞と接続しているグループが連鎖的に反応するが、何度も同じ信号をやり取りするうちに結合が強化される。このとき作られた集団が、特定の情報に対する「記憶」となり、同じ記憶を保持する。その後、なんらかの信号を受けて以前作られたグループが再活動すると「思い出す」ことを意味する。
しかしシナプス可塑性は恒久的に維持されるものではないので、想起されるものがなければ使われない回路は細くなっていき、これが「忘れる」の正体となる。
記憶と同じしくみだが、空間や場所を特定する「場所細胞」というグループもある。