SNSにはお互いの意見を橋渡しする機能が不足している
現代のSNSは容易に正義感などの感情を振りかざせるようデザインされているでも言及されていたが、オードリー・タン氏も同じことを言っていた。本誌に記事の全文があって、そのうち一部は「SNSには根本的な機能不全がある」オードリー・タン氏が語る参政党躍進の裏側とデジタル民主主義の可能性にあるが、消えるかもしれないので引用する。
SNSは確かに極論を増幅させています。その作用はAI(人工知能)を使ったシミュレーションでも明らかです。オランダ・アムステルダム大学の研究者2人による論文「我々はソーシャルメディアを修復できるか?」は、AIを使ってSNS空間を再現しました。プログラムで作った機械のユーザーたちに人間のように投稿とフォロー、他者の投稿のリポスト(再投稿)をさせてみたところ、過激な投稿をするユーザーほど多くのリポストを獲得しました。
その結果、現実のSNSと同様に極論が拡散されました。偏ったアルゴリズムによる介入をしなくても、SNSでは自然発生的に極論が広がる根本的な機能不全があると明らかになったのです。
極論が広がる理由は、リポストにあります。そもそも人はなぜリポストしたがるのか。リポストは人間に、社会学で言うところのボンディング・キャピタル(共通の背景や価値観を持つ人の間の強い結びつき)を「報酬」として与えるからです。リポストは同じ属性の人々に対して「私もあなたの仲間です」と証明する行為であり、リポストによって強い結びつきが体感できます。
研究では、極論の拡散を改善できそうな介入がいくつか試されました。投稿を時系列で淡々と表示するとか、リポストが多い投稿は逆に下位に表示するとか。その中で唯一効果を発揮したのが、お互いの理解や建設的な議論を促し、異なる意見の間にブリッジング(橋渡し)をする投稿を優先して表示することでした。
現実のSNSにも、橋渡し機能を追加すれば極論の拡散とポピュリズムの拡大に歯止めがかけられると考えています。実際、Xがコミュニティノート(誤解を招く可能性のある投稿に、他のユーザーが匿名で情報を追加できる機能)を導入するなど、試みはもう始まりつつあります。
そのうえで、広く聞くことの大切さも謳っている。
SNSはブロードキャスティング(広く情報を配信すること)のプラットフォームです。これと反対に、幅広い声を集める「ブロードリスニング」の道具もデジタル技術で実現できます。そしてそれは、民主主義の可能性を知る上で非常に有用です。
米ケンタッキー州のボーリンググリーン市は、25年間の長期都市計画を策定するに当たり、オンライン投票プラットフォームを活用しています。市民から募ったアイデアに対しオンラインで意見を集めたところ、人口7万人あまりのこの市で100万件以上もの膨大な意見が集まりました。それをAIで「どのアイデアが支持されているのか」を可視化すると、大多数が賛同する案が多数あることが分かったのです。
交通・医療インフラの改善や、新しく商業ビルを作らず既存の建築を活用することといった提案には圧倒的多数が賛同していました。一方で「みんなでロシア語を話そう」「道路に赤いカーペットを敷こう」といった極端なアイデアはまったく支持されていないことが一目瞭然でした。リポストがあるSNSでは極端な声があたかも大多数のように見えますが、実際には大多数が合意している領域がたくさんある。それを可視化できるのもデジタル・テクノロジーなのです。